デンタルダイヤモンド誌 2000年臨時増刊号 編集委員
「歯科医院における新しいBGMの取り組み」
BGMは治療の友!
夕日の山々に五重塔、そこから聞こえる鐘の音。日本人ならばそれを聞くことによって心の乱れを整える効果があります。また、教会のオルガンや賛美歌もやはり崇高な理念を表現した精神的な音楽でしょう。音楽を聴いてストレス状態から脱出することはわれわれがしばしば遭遇することです。
Painless Dentistは私たち歯科医師のだれもが目標とするところ。患者さんになるべく苦痛を与えずに快適に治療を提供できたらと思います。
最近話題になっているアロマテラピーやリラックスカプセルなども心をやわらげる意味では現代人の需要の多さを物語っています。
音楽はそれを聞くことによって心の乱れを整える効果があり、薬など対症療法に頼らずして不安感、緊張を癒すことができる、BGMは歯科医院にとって大切な道具のひとつといえるのではないでしょうか。
著者は1980年の開業以来ずっと有線放送を使ってBGMを流してきもした。一昨年あたりからCS放送のBGMチャンネルを試しましたが、どちらも一長一短があります。
有線放送のBGMはさすがに種類や曲数も豊富で聞いていて飽きることはありませんが、年間5〜6万円の契約料を払うことになります。CS放送は今ではスカイパーフェクTV1社になってしまいましたが、本来テレビ番組用です。
そのうち100チャンネル分に音楽チャンネルがあります。音質もよく、かかっている曲の名前や演奏時間が表示されるのでその点ではよいのですが、曲数が少なく2〜3時間で同じ音楽がかかり、好きな曲の全楽章を聞きたいのに一部分しかかからない、などの難点があります。1ヶ月の使用料は基本料金を含めて1500円程度です。
また、多連装CDチェンジャーを利用されている方も多いと思います。50連装のCDプレーヤーも装置そのものは5万円を切る時代になり、廉価になってきましたが、CDを買い揃えなければならない点や、場所を取る点が問題でしょう。
エジソンもびっくり!
1877年(明治10年)エジソンが世界で初めて音を記録する装置を発明して以来、人々は音声を記録する方法に研究努力してきました。技術の進歩と共に音楽を録音、再生する技術も変わってきています。著者が子供のころの記憶では78回転のSP盤が蓄音機とともに家にあったのを記憶しています。 直径30cmの円盤に片側4〜5分の曲が記録されていました。
その後、LPレコード、オープンリールのテ-プレコーダー、カセットレコーダーと続き、時代はデジタルへと変化していきました。1982年にソニーとフィリップスの2社によってコンパクトディスク(CD)が開発されました。音声をデジタル化するという点で画期的な記録方法でした。電気の波である信号を細かくぶつ切りにしてそれを数値化するものです。(図1)数値化したデータ-は16ビットで量子化され、0か1かのデータ-として記録されます。
直径12cmのCDの表面を顕微鏡で見ると、らせん状にピットという微細なくぼみが無数にあります。このピットにレーザー光線を照射して反射してくる光を、光ピックアップという装置でとらえて電気的デジタル信号に変換の後、アナログ信号にしてスピーカーから流れます。ピットの巾は
約0.6マイクロメートル位、ピットの長さはいろいろですが、ピットの大きさは、CD全体を野球場にたとえて比較してみますと、グラウンドの中にシャープペンシルの芯を無数にならべた位のものだそうです。この100年の変化を誰が予想できたでしょうか。
音楽データは大きい!
デジタル化した音楽データ-は莫大な0か1かの信号ビットによって記録されますので、その情報量はかなりの量になります。1分間の音楽データー(WAVEファイル)は約10メガバイト必要です。コンピューターでは2バイト(16ビット)で日本語の1文字が表されることを考えると音楽データ-がいかに大きいかが分かります。
10メガバイト(1千万バイト)は日本語文字データにしたら500万文字を表すデータ量です
フロッピーディスクが1.4メガバイトとすると70万文字。1分間にフロッピーディスク約7枚分のデータ処理をすることが必要ですもう少しわかりやすくたとえれば、これは1年分のデンタルダイヤモンド誌の文字データを1分で処理するくらいの仕事量でしょう。(図2)
MP3登場
このような大きなデータ-を効率よく保存する方法が研究されました。いわゆる"圧縮"です。
圧縮の技術はインターネットの発達と共に進歩してきました。音声に限らず、画像やプログラム、ムービーなどもデータを小さくして、回線で送ったりあるいは効率よく保存したりするためです。
音声圧縮方式ではMS-Audioや SoundVQ 等がありますが、ここでは現在もっともポピュラーなMP3について説明します。
MP3とはISO(国際標準化機構)の動画等に関する規格(MPEG−1)のオーディオに関する部分の
Layer V(レイヤスリー)という規格に基づいて作成された、オーディオのデータファイルのことです。これはMP3プレーヤーやMP3ソフト対応のパソコンで再生して音声を聞くことが出来ます。
この技術は、音声ファイル(WAVEファイル)を圧縮する過程で本来データ-の情報の一部を間引きしてしまう方法です。 人間の聴覚特性には、大きな音の周波数の近傍にある小さな音は聞き取る事が出来ないという聴覚特性(マスキング効果)を反対に利用して、この聞こえてない情報を間引きしてしまうことによってデーターを小さくしました。この技術によってデータを10分の1にしてしまうことを可能にしたのです。MP3は演奏時間1分当たり約1メガバイト、音楽CDは前述のとおり演奏時間1分当たり約10メガバイトですから、音質をほとんど変えずにここまでできるのはすばらしい進歩です。
音楽CDからMP3ファイルへの変換(これをエンコードといいます)は最近ではたくさんのソフトウェアが出回っております。
ネット上で無料で配布されるものやシェアーウェア、またMP3プレーヤーを買うと付属しているものなどがあります。また、ソフト単体で販売されているものもあります。
エンコーダソフトによって、音質や変換時間に多少ちがいはありますが、概してそれほど高価なソフトではありません。著者はTDKのMP3
Music CollectorというものとMP3 Studioというソフトを主に使っていますが、前者は1枚のCDをわずか10分程でMP3データに変換してくれます。
変換したデータはアルバムデータベースとして保存することができ、ジャンル別や日付順に分類され、たいへん使いやすくなっています(図3)。
MP3をCD-Rで記録する
さて、このように圧縮した音楽データーを実際にどのようにBGMとして利用するかをお話しましょう。
ハードディスクも大容量なものが低価格になり、パソコンに内蔵のハードディスクに保存する方法もありますが、著者はCD-Rを使ってCDにデータを記録する方法をとっています。これはCDメディアの樹脂内部に強いレーザー光線を当てて記録するものですが、この方法ですとメディアも廉価(1枚百数十円…これはカセットテープと同価格!)で比較的データが壊れにくく安定で、かつ音楽CDと同じように操作が楽であるため、埃の多い湿度の高い歯科医院には最適と思います。
CD-Rは1枚のCDに640メガバイトのデータを記録することが出来ます。一般の音楽
CD の最大録音時間は 74 分ですが、MP3データなら740分すなわち12時間以上もの音楽をたった1枚のディスクに記録することが出来ます。(図4)
普通のイージーリスニングのクラッシク室内楽で150曲以上のデータが入ります。曲順はランダムに設定することも可能です。著者は室内楽、器楽、JAZZ等ジャンル別にCDをつくり保存しています。
記録ソースとしては音楽CDだけでなく有線放送やCS放送から直接アナログ録音することも可能です。この1枚12時間以上演奏可能のMP3CDを何枚か作っておけば、もはや放送契約料は必要なくなるでしょう。
レセコンだけではパソコンが泣く?
私の診療所のコンピューターネットワーク(図5)を示してあります。
院内のBGMのためには、こんなに何台もネットワークでつなげる必要はありません。
もちろん1台のパソコンでもじゅうぶんBGMを流すことは可能ですが、パソコンはネットワークでつなげて仕事をするのが得意なのです。効率のためにも、安全のためにもネットワークすることをお奨めします。
最近では歯科医院の半分以上にレセコンの導入がされているようですが、パソコンはレセプト発行だけの情報処理機としての時代は終わりました。
最近のパソコンの高性能化と低価格化で、今までほとんど不可能だったことが、たやすくできるようになってきました。
画像や映像、音声の処理や情報の転送といった高価なビジネスマシンだけができたことが、今では家電品売り場の10万円以下の入門機でもこのような仕事ができてしまうのです。
たとえばレセプト打ち出し中にワープロを使って患者さんの紹介状を書いたり、E−メールをチェックしたり、もちろん同時にBGMを流すくらいの仕事はできてしまいます。これらの一連の作業はパソコンが他の仕事をしているときでも同時進行でいくつもの仕事をこなしてしまうのです。これをコンピューター用語でマルチタスクといいます。さあ、この働き者のパソコンにもっと仕事をさせましょう。
2000年5月